
こんにちは、ハルカ先生です。みんなは大人になったら、どんな仕事につきたいかな?
プロ野球選手、弁護士(べんごし)、銀行員、ラーメン屋さん、美容師(びようし)、看護士(かんごし)・・・
そう、世の中にはいろいろな仕事があるけど、一体どんなことをしているんだろう?
ここでは、じっさいに働く大人の人にインタビューして、その仕事の内容や「やりがい」、「よろこび」、「たいへんなところ」などを紹介(しょうかい)していくわよ。
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『分かりやすく伝える』本をつくる
この出版社は、現在、生活のあらゆるところで使われるようになっているコンピュータの使い方から、コンピュータの専門(せんもん)知識を得るための専門書や雑誌(ざっし)を中心に発行している出版社。その他にも、新しいジャンルの出版も手がけていて、たとえば、社会人向けにビジネスを成功させるためのビジネス書や、家庭向けに生活に役立つ実用書も出版しているよ。
話をしてくれたのは、編集局 書籍(しょせき)編集部で編集長を務める西村 俊滋(にしむら・しゅんじ)さん。現在は、サイエンスの楽しさを伝えるための本を手がけているんだって。まずは、出版社の役割(やくわり)について聞いてみました!

(株)技術評論社 編集局 書籍編集部
編集長 西村 俊滋さん

技術評論社
「出版社の役割は、いろいろな分野の知識や情報、人々の文化や考え方・経験を、より多くの人に『分かりやすく伝える』、つなぎ役を果たすことだと考えています。この『分かりやすく伝える』というのが、実はむずかしいことなのです。そのやり方は出版社や編集者によってさまざまで、そこに本の個性が現れてくるんです。特にインターネットが普及(ふきゅう)し、情報があふれている現在では、本は単に情報を伝えるだけでは十分ではありません。そこで、編集者の魂(たましい)やメッセージがこもった本づくりが、大切になってきているんです」
■出版社の仕事とは?
なるほど! インターネットで検索(けんさく)すると、確かにいろいろな情報を収集(しゅうしゅう)できるわね。でも、情報を選ぶのは大変だし、理解するのにむずかしすぎる情報もたくさんある。だから、読む人に『分かりやすく伝える』ために、編集者の人たちは日々努力をしているのね。
ところで出版社には、実際にどんな仕事の種類があって、それぞれどんなことをしているんですか?
「出版社は、大きく『編集部』と『営業部』から構成されています。『編集部』の仕事は非常に範囲(はんい)が広いのですが、分かりやすくいうと、著者(ちょしゃ)に原稿(げんこう)を書くことお願いして、できあがってきた原稿をチェックして、本としてのカタチを整えていくことが主な仕事です。
一方、『営業部』はできあがった本を売るための部署(ぶしょ)で、多くの注文を書店から集めたり、本の宣伝(ぜんでん)を行ったりします。この他にも出版社には、本のデザインをまとめたり、印刷所とのやりとりを行う『制作部』や、雑誌(ざっし)の広告を集める『広告部』などがあります」
■「本」づくりのすべてに係わる編集という仕事
ひとくちに出版社といっても、いろいろな人が働いているのね。では、編集って仕事を、もう少しくわしく教えてもらうことにしましょう。
「編集の仕事は、本ができ上がるまでのすべてに係わっています(表1参照)。ここでは、本ができあがるまでの流れにそって、編集者の仕事を追っていくことにしましょう。まずは、どんな本を出版するかという企画(きかく)を考えます。どんな人に読んでもらいたいか、そのためにはどういった内容にするか、だれ書いてもらうか、どういう価格で、どういったサイズでどんなデザインの本にしたいか、発行する日はいつかなどを考えながら、売れる本、役立つ本の内容を企画書にしていきます。
次に、その企画について、編集部で検討(けんとう)を行います。企画のOKが出たら、今度は著者(ちょしゃ)に原稿をお願いします。この時、どういう意図の本を作りたいかを、著者にちゃんと理解してもらうことが大切です。
一方、本は原稿だけでは成り立ちません。デザインも、重要なポイントです。そこで、本のできあがりイメージをえがきながら、デザイナーと打ち合わせして、本の表紙や中面、カバーのデザインを決めていくのも、編集者の仕事です。さらに、ボクたちが作っているサイエンス系(けい)の本では、読者に分かりやすくするために、図やイラスト、写真などを入れていくことが必要です。これらについても、編集者が案を考えて、イラストレータやカメラマンに作業をお願いします」

本のカバーを決める会議
| (表1) 本ができ上がるまでの大まかな流れ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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なるほど。企画を立ててから、社外のさまざまな人たちに作業をお願いし、本の中身をつくっていくのね。では、著者から原稿があがってきた後は、どういう仕事が待っているんですか?
「編集者は書き上がった原稿の最初の読者です。そして、読者の立場に立って、できあがってきた原稿や図を、きちんと分かりやすく伝わるように改良していくというのが、次のステップになります。必要に応じて著者に書き直してもらったり、自分で書き直したりします。また、原稿が完成に近づいてくると、今度は印刷の準備を始めなくてはなりません。現在の本の多くは、DTP(ディー・ティー・ピー〔デスクトップパブリッシング〕)とよばれるコンピュータシステムにより印刷用のデータをつくっているので、そのための指示を担当(たんとう)者にあたえます。
担当者がつくり上げた印刷イメージは、専門(せんもん)用語で『ゲラ』とよばれています。その『ゲラ』が上がると、文字や図を入れるところのまちがいがないかをチェックし、さらに読者に伝わりやすくするために、再度改良を加えていきます。同時に『ゲラ』のチェックと平行して、デザイナーとのやりとりを重ねながら、表紙やカバーの印刷データも完成させます。こうしてやっと完成した印刷用データを、印刷会社にわたして印刷してもらいます。その後、印刷会社からは、本番の印刷手前の印刷イメージがとどけられるので、そこで最終チェックを行ってOKを出すと、本がようやく完成します」

著者からの原稿をチェックする西村編集長

ゲラをチェックする西村編集長。
完成まで、もう間近!?
本を作るって、大変な仕事なのね〜。でも、編集者の仕事は、これだけでは終わらないんだって。次は何をするのかなぁ?
「本が印刷されたら、『今度こういった本ができます』ということを、営業部の人に伝え、たくさん売れるための作戦をいっしょに考えます。宣伝(せんでん)用のチラシや広告の材料を用意するのも編集者の仕事です」
■編集長の仕事とは?
編集者の仕事って、本当にたくさんあるものなのね。では、編集者の中でもいちばんエライ編集長の仕事って何なんだろう。西村さん、おしえてください!
「やっとボクの仕事にたどり着きましたね(笑)。ボクの編集部では現在、いろいろな人に理科や科学の面白さを理解してもらいたいと考え、『知りたい!サイエンス』というシリーズの本を出しています。編集部員はボクを入れて4名。ボクの仕事は、編集者のまとめ役だと思ってくれたらいいと思います。シリーズの出版を進めるには『どんどん進もう!』とか『今度はこっちも進もう!』といった舵(かじ)取り役が必要なわけで、ボクがそのような判断をしています。そのなかで大変なのが、編集部員のすべての企画が、予定通りきちんと本になるまで手助けをすること。本というのは、書いてもらう人にきちんと原稿を上げてもらわないと、何も進まないんです。だから、それらを全部、ボクが応援(おうえん)して、本になるようにがんばっています」

本をつくる工程で生まれたもの。
手前中央が完成した本。
手前左が、図の校正紙。
手前右がゲラとよばれる校正紙。
奥がカバーの校正紙。
■仕事で大変なこと、うれしい瞬間(しゅんかん)は?
なるほど、編集長はまとめ役として、苦労も多いんですね。それでは、編集者の仕事でもっとも大変なことって何ですか?
「最も大変なのは、やはり本の企画を立てることです。実は、編集者の脳(のう)ミソのほとんどが、ここに使われています。『いま読者はどんな本を読みたがっているんだろう?』、『いまは本屋にないけれど、こういう本を作ったら読者は読んでみたい!と思うにちがいない』なんてことを、いつも考えています。ボクたち編集部の場合でいうと、『いまみんなは、どういったサイエンスについて知りたいんだろうか?』、『算数や数学って苦手な人でも、面白いと思える数学の本があったら』、『地球温暖化(おんだんか)がニュースの話題になっているけど、実際どうやって将来(しょうらい)を予測しているのか知りたいよね』といったことをいろいろ考えたり、ほり下げながら、企画を組み立てていくんです。こういったことを、編集部員はもちろん考えるけど、編集長としてそっせんして考えていくようにしています」

西村さんたちが手がけている
『知りたい!サイエンス』シリーズ
みんなにとっても、面白そうな本があるね。
他にも大変なことはありますか?
「まだまだありますよ。というのも、編集者は、本づくりにたずさわる人たちの中心にいるからです。編集者を中心に、その先々に著者、監修(かんしゅう)者、カバーデザイナー、DTP担当者、イラストレータ、社内の営業部など、多くの人たちがいて、そういった人たちと仲良く仕事を進めていかなくてはなりません。その中でも大変なのは、著者に原稿を書き上げていただくまで、根気よくお願いし続けることでしょう。企画はもともと編集の方からもちかけることが多いんですが、書いてもらう人をその気にさせ、さらにこちらの意図を理解してもらい、その上でどういう内容を具体的に書いてもらうかをいっしょに考えていきます。意図が伝わり、文章が進むまでには、かならずひと苦労があります。また、本のタイトルを考えることも、頭をなやませることの1つです。せっかく本の内容がよくても、タイトルが悪ければみんなの手に取ってもらえないし、逆にタイトルがすごくよければ、予想より売れることもあるので、ものすごく神経を使います」
なるほど、企画から制作段階(だんかい)、そして本の売れ行きまで、頭と神経を使っているんですね。では、仕事を通じて、うれしいのは、どんな時ですか?
「それはもう、決まっています。自分で企画し、苦労して作った本が、本屋さんでたくさんの人に気に入ってもらい、買っていただくこと。これにつきます」
■編集という仕事を選んだ理由
そうよね。苦労したことが、みんなに喜んでもらえたり、役に立てば、うれしいわね。ところで西村さんは、なぜ編集者という仕事を選んだのですか?
「ボクの場合は、少し変わっています。大学では、理学部で化学の勉強をしました。当時、理学部の卒業生の進路は、ほぼ決まっていました。そのまま大学に残って研究者になるか、メーカー(製品を作っている会社のこと)に就職(しゅうしょく)するか、学校の先生になるかでした。ところがボクは、ちょっと就職につまずいてしまったんですね。そこでもう一度、仕事について考えてみました。その中で、自分がそのころ読んでいたパソコンの雑誌があって、そのうちのどこかの出版社で働けば、自分の興味・関心がいかせるし、文章を書くとか、ちょっと知的な仕事ができるぞと、ふとひらめいたんです。すぐに本屋さんに行き、出版社の電話番号をメモして、公衆(こうしゅう)電話から、その会社に『就職させてください!』とお願いしたんです」
それが、いまの会社なんですね。ちなみに、子どものころは、将来(しょうらい)どんな仕事につきたいと考えていましたか?
「ボクの父親は中学校の数学の先生でした。だから自然とボクも理科か数学の先生か、理系(りけい)の研究者になろうかなって思っていました。友だちも、自然とそういうタイプの仲間が集まって、模型(もけい)飛行機を飛ばしたり、BCLラジオ(短波による国際放送を聞いて楽しむこと)に夢中になっていました。ちなみに編集者っていうと、本が好きで、子どものころもたくさん本を読んでいたと思うでしょう? 確かに調べ物は好きだったし、図書委員をかって出たりしたことはあったんだけど、国語の成績は普通(ふつう)だったし、本自体がそんな好きってことはありませんでした」
■編集に向いている人とは?
編集という仕事は、どんな人に向いていると思いますか?
「編集の仕事に向いているのは、『こだわりのある人』です。何でもいいんですよ。ゲームや趣味(しゅみ)でも、何かこだわる性格の人は、編集に向いています。それには2つの理由があると思っています。1つは、ある分野についてくわしくなるのが楽しいって思えるかどうか。もう1つは、根気があること。なぜなら、ひと文字ひと文字の文章や見出しの文章を少しでもよくしようと、こだわることが大切だからです」
■本の楽しさを知ってほしい
最後に、みんなへのメッセージをお願いします!
「いまはどんな調べごとも、インターネットなどで簡単(かんたん)にできます。野球やサッカーの結果や、ゲームの攻略(こうりゃく)法、今週の天気など。あるいは顔の見えない人と交流することもできます。このように情報があふれ、他人とつながりやすくなる世の中は、確かに便利ではあります。しかし一方で、ボクたちが子どものころと比べると、モノゴトや人の心の大切さが、薄(うす)くなっているような気がします。つまり、不便だからこそ、1人ひとりが努力して、みんなが力を合わせてやっていた良さがあるということに、気が付いてほしいんです。また、正直いうと、いま出版はあまり調子がよくない業界です。その理由の1つとして、やはりインターネットでいろんな情報が手に入るから、あまり本を必要としなくなったといわれています。でもこれは『本屋に行かなくても情報が手に入る』からではなく、『みんなが結果だけを求めて、考えようとしなくなった』からだと思うんです。楽しいことはいまも昔もいっしょだけど、あきっぽかったり、おこりっぽくなっていませんか? それは、結果だけを求めようとするからです。だからボクは、本をつくるという仕事を通じて、みんなに結果としてではなく、深く『知る』ことの楽しさやきっかけをあたえていきたいんです。そこに、ボクたち編集者の仕事に対するやりがいがあると感じています」
ハルカ先生からみんなへのおねがい。今回のインタビューを読んで、何か意見や質問があったら、お問合わせフォームからメールを送ってね。それでは、次回はどんな仕事に出会えるか楽しみにしていてね!










